名古屋地方裁判所 昭和61年(ワ)1543号 判決 1987年11月27日
原告
加藤茂男
右訴訟代理人弁護士
浅野隆一郎
被告
愛知東郷農業協同組合
右代表者理事
石川勝
右訴訟代理人弁護士
楠田堯爾
同
加藤知明
同
田中穣
主文
一 本件訴を却下する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 昭和六一年五月一一日被告第三八回通常総会においてなされた別紙決議目録記載の各決議を取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 本案前の答弁
主文同旨
2 本案の答弁
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、農業協同組合法に基づいて設立された農業協同組合であり、原告は、その組合員である。
2 被告は、昭和六一年五月一一日午前一〇時から愛知県愛知郡東郷町大字春木字北反田一四番地所在東郷町公民館において第三八回通常総会(以下、「本件総会」という)を開催し、別紙決議目録記載の各決議をした。
3 しかし、右各決議には、以下の取り消しうべき瑕疵がある。
(一) 本件総会は、前記のとおり昭和六一年五月一一日に開催されたが、被告は、本件総会招集通知を、同年同月三日に被告組合員に発信した(農業協同組合法三七条三項違反)。
(二) 被告は、別紙決議目録記載の第四号決議決議案を、本件総会招集通知に記載しなかつた(農業協同組合法三七条三項違反)。
(三) 被告は、昭和六一年五月六日当時において、事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書及び剰余金処分案を主たる事務所に備えておらず、原告に閲覧させなかつた(農業協同組合法三九条一、二項違反)。
(四) 本件総会において、議長は、原告の代理人として出席した加藤真金の質問を不当に制限し、被告は、決議案の説明を十分になさなかつた。
4 よつて、原告は、本件総会においてなされた別紙決議目録記載の各決議の取消を求める。
二 被告の本案前の主張
1 原告の請求は、農業協同組合の総会における決議の取消を求めるものであるが、農業協同組合法その他いかなる法律にも右取消の訴を認める規定はなく、よつて、訴訟の一般原則上、本訴を提起することはできないのであるから、原告の訴は、不適法なものとして却下されるべきである。
2 本訴は、原告の息子が被告理事らを困惑させ、被告から何らかの利益を得るなどの不当な目的で原告名義を借用して提起したものであり、原告には本訴提起の真意はないから、本訴提起は訴権の乱用にあたり不適法である。
三 被告の本案前の主張に対する原告の答弁
1 本訴においては、商法二四七条が類推適用されるのであるから、なんら本訴が却下されるべき不適法なものとなるいわれはない。
2 二2は否認する。
四 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は、これを認める。
2 同2の事実は、これを認める。
3 同3の事実中、同3(二)の事実は、これを認め、その余の事実はこれを否認する。同3(二)の瑕疵は重大ではなく、かつ決議の結果に影響を及ぼさないこと明らかである。
第三 証拠<省略>
理由
一原告の請求は、被告の本件総会における招集手続に瑕疵があり、かつ決議方法が不公正であるので、判決により本件総会における別紙決議目録記載の各決議の取消を求めるということにつきるが、農業協同組合法その他いかなる法律においても、農業協同組合の総会決議取消の訴を認める規定は存在しないのであるから、右決議の無効ないしは不存在の確認を求めるというならともかく、そうでない(ちなみに右決議無効ないし不存在事由の主張立証はない)以上、訴訟の一般原則からいつて、本件訴の提起は、法律上許されないものといわざるを得ない。
原告は、この点、裁判例(山口地裁宇部支部昭和六一年二月二一日判決、判例時報一一九一号一二〇頁)を引用し、水産業協同組合法上の漁業協同組合の総会決議に関し、商法二五二条を類推適用していわゆる形成の訴たる決議無効確認の訴が認められているのであるから、同様に商法二四七条を類推適用しておなじく形成の訴たる総会決議取消の訴も認められてしかるべきであると主張する。しかし、右裁判例の趣旨は、商法二五二条の類推適用を待つてはじめて右決議無効又は不存在確認の訴が認められるというのではなく、これが現に存在する紛争の直接かつ抜本的解決のため適切かつ必要と認められる場合には、適法となるとして、右訴を確認の訴として、訴訟の一般原則の適用の結果、右決議無効又は不存在確認の訴が認められるとし、更にそれを前提とし、右訴についての認容判決には商法二五二条を類推適用して対世的効力が付与されると判示したものであり、決議取消の訴が適法である旨判示したものではない。原告の右主張は、独自の見解を述べるものであつて、前記のとおり、訴訟の一般原則に照らし、採用できない。
二以上の理由で、本件訴は不適法であるから、その余の点について判断するまでもなくこれを却下することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官神沢昌克)
別紙決議目録
第一号決議 昭和六〇年度事業報告、財産目録、貸借対照表、損益計算書、剰余金処分案について
第二号決議 定款の一部変更について
第三号決議 定款付属書総代選挙規程第三条第二項別表(各選挙区の総代定数)の承認を求める
第四号決議 昭和六一年度事業計画の設定について、別紙のとおり承認を求める
第五号決議 昭和六一年度一組合員に対する貸付金の額の最高限度決定について
第六号決議 昭和六一年度一員外者に対する貸付金の額の最高限度決定について
第七号決議 昭和六一年度貸付金利率の最高限度決定について
第八号決議 昭和六一年度借入金の最高限度決定について
第九号決議 昭和六一年度余裕金の預け入れ先、取得しうる金融債券および金銭信託の信託先並びに有価証券の信託先の決定及び特殊法人債、金銭信託、貸付信託の受益証券に運用する余裕金の最高限度決定について
第一〇号決議 役員報酬の決定について
第一一号決議 農産物の代金等の受領及び受検手続きの委任について
附帯決議 この総会において決議した事項のうち、行政庁に提出する書類の補正変更を必要とする場合は、その主旨に反しない範囲内においてその変更を理事会に一任する